「交渉力」

最初は買い手や売り手の「交渉力」から行こう。
交渉力と聞くと、「値切り交渉」が最初に浮かんでくると思うけど、
5フォースではもっと範囲が広いんだ。
英語では「バ-ゲニング・パワー」と言って、
「自分にとって有利な売り、または買いができる力」のこと。
そしてこの「力」には、売り手や買い手を取り巻く環境の効果も含まれる。

例えば「買い手の交渉力」では、
「値切り交渉」や「納期交渉」のスキルはもちろんのこと、
「買い手がほかの代替品の存在を知っている」ことも、
買い手の商談の助けになるはずだ。
それ以外にもいろいろあるよ。
市場にいる「買い手の数が非常に少ない」場合や、
買い手が「必要としている製品のボリュームが大きい」とき、
買い手が「製品や市場にすごく詳しい」とき。
こんな時買い手は強気の商談ができるだろ?

そうですね。
じゃあ、インテルやマイクロソフトなんかは、
めちゃくちゃ強気の売り手になれますね。
製品はそこにしかないんだから…。
「後方(川上)統合」と「前方(川下)統合」

次に話しておきたい言葉は「後方(川上)統合」と「前方(川下)統合」。
先に例題を話すと、「問屋(卸売業)の業界」で、
売り手のメーカーが直営店を作って、
問屋や小売店を使わないで最終顧客に販売するような場合、
このようなケースを「前方(川下)統合」というんだ。
もし売り手にこれを実現できる能力があるとすれば、
これは「問屋業界」にとっては、「売り手から受ける脅威」になるね。
これが「売り手の前方統合能力」。

そうか。
じゃ、例えば買い手のスーパーが、
自分で牧場を経営してバターやチーズを作ったら、
それは「後方(川上)統合」ということになって、
乳製品卸売業界にとっては、
「買い手から受ける脅威」になるわけですね?

そういうことだね。
「チェンジングコスト(切替コスト)」

じゃ、もう一つだけ、
それは「チェンジングコスト(切替コスト)」という言葉。
言葉の意味は、「現在販売、または使用している製品を、
別の製品・代替品に変更したときにかかるコスト」のこと。
家電製品の例で考えると、冷蔵庫は機種を買い替えても、
電源さえつなげば使えるから他に何もいらない。
つまりチェンジングコストは発生しない。
だから「代替品に切り替えやすくなる」。
これは業界側から見たら、「買い手から受ける脅威」になるだろ?
買い手が「浮気しやすい」ということだから…。
逆に、切り替えるとチェンジングコストが発生するものは、
代替品に切り替えにくくなる。

そうですね、でも家電製品でチェンジングコストがかかるとすれば、
売れなくなりますよ。

そう、だから家庭用品なんかで、
チェンジングコストがかかる代替品を作った場合は、
それを超える付加価値がないと失敗するだろうね。
つまり「差別化」の成否がポイントだ。
だから買い手は、
「製品の付加価値とチェンジングコストのバランス」を見て
意思決定することになる。
マイケル ポーターが「買い手の交渉力」の分析要素リストに、
「買い手の相対的な切替コスト」と表現しているのはこのことなんだ。
だけどメーカーが仕入れる部品・材料は、
チェンジングコストが競合のポイントになることがあるね。

例えばメーカーが、よい部品を見つけたので、
従来使用していた部品と変えたいとする。
でもこのときは、設計変更や生産ラインの変更、
検査設備と検査工程の変更などの、
チェンジングコストに見合った付加価値が生まれないと
採用はできないよね。

この時は、売り手側から
「切り替えによって得られる付加価値と切替コストのバランス」を、
業界側にアピールすることになる。
だから「売り手の交渉力」の分析要素リスト中にも、
「供給側の相対的な切替コスト」の表現があるんだよ。
本当にチェンジングコストに見合う提案をされたら、
業界側だって検討せざるを得なくなるからね。
この場合は、売り手からの「脅威」というよりも、
「意思決定を助ける力」位に考えてもいいかもしれない。
5フォース分析にはややこしい言葉が多いけど、
次の「5フォース分析の手順」では、
「分析要素リスト」の項目について具体的に説明しているから、
それを読んだらまた話そうか。
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