2020年が明けて間もなく、家電メーカー卸売部門の新任マネージャは、自分のチームでSWOT分析をやってみようと思い、その手順を確認しました。
SWOT分析のテーマ
分析の対象は「4Kテレビ」。今年はオリンピックイヤー。それに向けて4Kテレビの買い替え需要が増えると読んでの作戦です。
分析手順を「分かりやすく」なるように工夫する
分析手順は、「SWOTマトリクスを作り、クロス分析によって拡販策を立案していく」 という標準的な方法に沿って進めることにしました。
しかし彼は、ここで2つの疑問を感じました。
- SWOTマトリクスに記入する機会や強みなどの要因を、どのようにして抽出するのか
- クロス分析表で検討する戦略案は、どのようにして決めるのか
特にチームのみんなでSWOT分析をする場合には、彼自身がこの答えをきちんと持っていて、チームをリードできないと、分析はうまくいかないでしょう。
そこで彼は、その分析工程を分かりやすく工夫してみることにしました。
マトリクス作成に関する工夫
SWOTマトリクスの作成では、マトリクス上のそれぞれの要因抽出時にみんなが参考にするチェックリスト「項目抽出のヒント集」を作ることにしました。これは次ページから示すように、「機会・脅威抽出用」と、「強み・弱み抽出用」の2種類を用意します。
そしてこのチェックリストを参照しながら、自社または自部署に当てはまる項目を見つけたら、それをヒントに、自分の言葉でマトリクスに記入していくのです。
SWOTマトリクスの記入フォーム
SWOT | プラス要因 | マイナス要因 |
内部要因 | (強み記入欄) | (弱み記入欄) |
外部要因 | (機会記入欄) | (脅威記入欄) |
SWOT分析 外部要因抽出用チェックリスト
次の表は、外部要因(機会と脅威)抽出用のチェックリストです。「PEST要因」は、PEST分析に使われる項目を引用しています。
また、「競合要因」は、営業現場のSWOT分析には、身近な競合相手の関わりも考慮すべきとの考えから、このリストに加えてあります。
PEST要因:市場全体に影響を及ぼす要因 |
□ 自社商品・サービスの提供方式・方法に対する政府の規制の強化(脅威)、緩和(機会) |
競合:競合他社の動き。 |
□ 競合他社の数が多い(脅威) |
SWOT分析 内部要因抽出用チェックリスト
次の表は、内部要因(強みと弱み)抽出用のチェックリストです。営業現場でのSWOT分析を考慮して、コトラーの法則に提言されている「総顧客価値」と、「総顧客コスト」をベースに作成。どの項目も「現在顧客に歓迎されているなら『当社の強み』」と判定します。
項目抽出のヒント集(コトラーの法則の項目に沿って強みと弱みを判定・抽出する)
対象ビジネス・商品:4Kテレビ関連商品
総顧客価値(顧客が喜べば「強み」) |
|
製品価値 □ 機能、信頼性、デザインなど |
従業員価値 □ 商品知識、市場動向知識豊富 |
サービス価値 □ 技術力・専門性あり |
イメージ価値 □ 自社の知名度、ブランド力 |
総顧客コスト(顧客が喜べば「強み」) |
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金銭的コスト □ 製品の納入価格 |
エネルギーコスト □ 直送など配送体制充実 |
時間的コスト □ 常備在庫品で短納期 |
心理的コスト □ 新製品の情報提供早い |
ヒントはB2Bビジネスを想定しているので、自社の業種・業態に合わせて追加・変更してください
実際にSWOTマトリクスを作成してみた
これらのツールの使い勝手を確かめるため、彼は自分自身で4KテレビについてのSWOTマトリクスを作成してみました。その結果を次に示しています。
強み(プラス要因) | 弱み(マイナス要因) | |
内 |
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機会(プラス要因) | 脅威(マイナス要因) | |
外 |
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作成した感想は…
要因抽出は外部要因の機会・脅威から始めました。その方が、強み・弱みを抽出するときに考えやすいと思ったからです。
最大の機会は「東京オリンピックを控えての買い替え需要」だと思いますが、他のメーカーや販売店も同じことを考えているはずで、「販売競争の激化」を前提に戦略は寝られるべきだと思いました。
それに対して当チームの強み・弱みを考えた時、チームに「4Kテレビ販売のための知識が不足している」ことを痛感しました。今まで販促部門に頼りっぱなしだったせいだと思っています。
次のクロス分析は、この点を十分意識して進めたいと思っています。
SWOT クロス分析表の工夫
クロス分析表についても、表に記入する戦略案を検討するときに、少しでも分かりやすい仕組みにしようと考え、分析表のフォームを次のようにしました。
- クロス分析は、マトリクス作成時に抽出した要因同士を組み合わせて行うので、
クロス分析表にもマトリクスに抽出した項目を表示する欄を作り、
機会と脅威、強みと弱みの組み合わせの状況を分かりやすくする。
- 機会・脅威と強み・弱みの組み合わせごとに、戦略立案の基本的な指針があるので、
それを「戦略のヒント」としていつでも参照できるように、クロス分析表に記載しておく。

SWOT分析の最終結果

対象ビジネス・商品:4Kテレビ関連商品
家電メーカーの新任マネージャと、先輩マネージャのティータイム、2人はそれぞれ卸売部門の営業チームを率いています。

先輩、SWOT分析を試しにやってみたんですが、
結果を見てくれますか?

うん、いいよ。
…
そういえば、この前「先ずは自分一人でやってみる」と言ってたね?

ええ、ちょっと苦労したんですが、
4Kテレビの販売をテーマにやってみました。
これなんですけど…

4Kテレビを選んだのは良かったね。
最近はオリンピックに絡めて、「臨場感がある」とか、
「アスリートの表情がくっきり見える」とか、
宣伝も増えてきているしね
これからが期待できる商材だよ

それで、やっているうちに、
僕らのチームの大きな弱みに気づいて、
ちょっと落ち込んでるんですよ。 …

4K放送受信についての僕らの知識不足
今まで販促担当に頼ってきたツケが回って来たみたいです

確かに、4K放送の受信には、
いろいろ知っておかなければならないことが多いからね。
特にお客さんから聞かれそうなことを考えると、
たくさん出てくるよ
中でも多いのは、
「今あるテレビで見られるのか、買い替えないといけないのか」とか、
戸建て住宅やマンションで、
「受信するために必要なことを全部知りたい」
と言ってくるお客さんも多いだろうね
でも、これにちゃんと答えるには、
アンテナからテレビまで覚えることがたくさんあるよ

そうなんです。だから僕らも
4Kの勉強をすぐに始めようと思っているんです
幸いウチは商品もそろっているし、
販促部門もよく協力してくれるので、
勉強会の指導と当面の営業同行を依頼して、
お客への説明や提案に使う資料は、
自分たちで作ろうと思ってます

それがこの「SWOT分析の結果」ということだね?
あちこちに「知識強化」がある…

じゃあ勉強会の時には、商品を企画した人にも
指導を依頼したらいいよ
僕からも頼んでおくから
「この商品はなぜ企画されたのか」、
「どのメーカーの、どの商品の、
どの機能に対抗して作られたのか」を、
作った人から直接聞くのが、
差別化策の1番のヒントになるからね